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今のぼく、そして過去のぼくのこと。


by cheaptrip
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はじまり


いつまでも田んぼのまわりで、寝転んでいてもラチがあかないと思い直し、時々ミナミまで出かけるようになった。心斎橋のそごう百貨店の大丸の間の出口を上がり、まずカメラナニワでモノクロのフイルムを5〜6本買い、そのまま周辺をうろうろしながら写真を撮った。何を撮っている、と言われても返事に困るようなものだった。ぼくはその春に本格的に写真の勉強をはじめたばかりであり、最近工場のバイトをして買ったばかりのペンタックスLXという、身分不相応なくらいに高級なカメラを持て余しぎみに持ち歩いていた。写真のやりはじめは、レンズを通して見える世界の全てが新鮮で、何を撮っても面白かった。だから何も考えずに街の中で目に入るもの全てを撮って、日が暮れると下宿に戻って、現像して即座にモノクロームのプリントを作った。

梅雨入り前の大阪は東京の下町のどんより空とは違って、カキーン!と強烈な光に溢れていた。大阪の原宿と呼ばれたアメリカ村も面白かったけれど、ぼくが好んだのは、もっと観るべきものなど何もないような普通の大阪の街の情緒に強く惹かれるものがあった、ひと気のない飲み屋街の昼間の風景のなかをほっつき歩き、時に路地の中に迷い込み、一緒に撮影に出かけた同級生といつの間にかはぐれてしまうこともしょっちゅうだった。ナニワの裏側の鰻谷と呼ばれるあたりを歩いていた時、なんとも不思議なモノクロームの看板を見つけることになる。

今思えば、それはモダン・ブルースの父、T-ボーン・ウォーカーが、ギターを背中に廻し、両足は関取の股割りよろしく、大きく開いたまま弦をかき鳴らしている、彼のお決まりのポーズのイラストだった。

「ブルース専門レコード店/川村レコード」
いつの間にか、ぼくはそのすすけた雑居ビルの階段を登って、店のドアを開けた。
一人でレストランすら行けないような気の弱いぼくが、なぜそのようなニッチな趣向を標榜するレコード店のトビラを開けようとしたのか、未だにわからない。
今思えばそれが全てのはじまりなのだ。
by cheaptrip | 2005-11-14 12:50 | 雑談