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今のぼく、そして過去のぼくのこと。


by cheaptrip
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夜の街の思い出

北新地の奥の方にお目当てのライブハウスはあった。
大阪の外れの田んぼの中で暮らしていた、ぼく達にとって、「あこがれの北新地」などという気分ではなく、ネオンが煌々と明滅する夜の街で変な人にからまれたりしないかとしわくちゃになったチラシ一枚を頼りに恐る恐るその奥の方へと進んで行った。

心斎橋のレコード屋「川村レコード」にこの間行ったら、オーナーが、「今度ライブやるんで。。。」とちょっと控えめに一枚のチラシをくれたのだった。
B5判の黄色い紙にスミ一色ですられた黒人の顔のとても渋いデザインで、チラシの右上にそれほど大きくはないが、結構目立つ文字で、「ブルースばっかり、ええかげんにせぃ!なにわブルースナイト」とあった。
その日は4つのローカルバンドが出演する予定になっており、レコード屋の主人は最後に出て来る「キング川村バンド」というのに出ることは聞かなくても分かる。

「で、川村さんは何を担当されているんですか?」
いつも、レジのカウンターの影に隠れるように座っている一見寡黙そうな初老の男性がブルースを自らプレイする、というのもあまりイメージが沸かなかった。
その答えは実にシンプルだった。

「歌です」


その、川村さんの「歌」というのが、妙に気になって今日は学校を途中で抜け出してやってきたのだ。ごみごみした飲み屋街のど真ん中に目当てのライブハウスはあった。
木でできた重たいドアを開けると、暖房とウィスキーの香りとが混然一体となったような生暖かい空気と、ザクザクとしたいつものシカゴビートを刻むBGMが、体全体を包み込んだ。ブルースのライブに足を運んだ時のこの瞬間が好きだ。
小さなレジカウンターで、チャージを支払い、ワンドリンク分のコインを受け取り客席の中央のやや前よりのテーブルに腰をつけた。開演30分前だというのに、席についている客の数はまばらで、しかしがら空きというわけでもなく、早めに着いた客達は既に適当に飲みながら、大声でお互いの世間話に高じているといった感じだ。
演奏が始まらなければそのまま普通に帰っても不自然じゃないほどブルースのライブ前というのは、その辺の居酒屋のような雰囲気になる。開演前に飲み過ぎて寝てしまうオジサンもいる。

とりあえず、オーダーを取りに来たので、ビールを注文し、軽く緊張しながらステージが始まるのを静かに待っていた。
by cheaptrip | 2005-12-18 17:54 |